Dec.14, 2005

特撰ディストピア

[Diary]

畏友アイダスキーはディストピアがお好き。いや私も好きですが。

Wikipediaなんかでは、ディストピアの特徴を「一見すると平等で秩序正しい理想的な社会だが、徹底的な管理・統制により自由が奪われた社会。自らの政治体制をプロパガンダで「理想社会」に見せかけ住民を洗脳し、この体制に反抗する者には治安組織が制裁を加え社会から排除する」と定義してますが、私なんかはもっと感覚的に、いわゆるアレな感じの「素敵国家(体制)」と捉えています。存在自体がブラックジョーク以外の何物でもないような代物。

そんな中で、ディストピア10選というのを挙げてみろというので、しばし考えてみる。結構カブるなぁ。

畏友アイダスキーのエントリおよびそこからのリンクに含まれる世界で私も思わず挙げてしまうのが、

  • 大東亜共和国(バトル・ロワイアル)
  • 199x年以後の地球(北斗の拳)
  • 地球連邦(スターシップ・トゥルーパーズ)
  • アルファ・コンプレックス(パラノイア)
  • 未来世紀ブラジル
  • オセアニア(1984)
  • 掛川城下(シグルイ)

…いずれ劣らぬ素敵ワールドです。 お前ら揃いも揃って趣味悪過ぎです。 皆さんお好きですね。

そこに含まれないもので私が挙げるのはこんなとこでしょうか。

  • 国民クイズ
    日本国憲法 第12章 国民クイズ(国民クイズの地位)
    第104条
    国民クイズは国権の最高機関であり、その決定は国権の最高意思、最高法規として、行政、立法、司法、その他あらゆるものに絶対、無制限に優先する。本憲法もその例外ではない――。
    バブル末期のジャパンアズナンバーワン的日本がさらに軍事力と核まで身に着けて見境なしのイケイケドンドン(曰く、「世界の水戸黄門」)になっているような世界で、「国民クイズ体制」によって統治・運営される日本を舞台にした話。
    国民クイズの決定であれば、迷子の犬探しから悪徳金融業者の処刑、野球の特別ルール制定から他国への武力介入まで、あらゆる欲望が等しく叶えられる反面、不合格者や反体制派に対しては徹底的な弾圧が行われるというユートピア(ディストピア)の素晴らしさぶりは抱腹絶倒もの。基本的にナンセンスの塊によってドライブされているんだけれども、その中に光るブラック・ユーモアのセンスが秀逸だと思うし、「国Q体制」を巡り、体制派、末端、反体制派(諸外国含む)が入り乱れる本ストーリーも面白い。 バブル末期の日本における世相を極端化しつつ、爽やかに、馬鹿馬鹿しい絵柄で演出する様は、カリカチュアとしてかなり極まった出来だと思うし、十余年の時を経た今でもなお笑えます(実は笑い事ではないんだけども)。昨今の偽造捏造ネタをこのノリで料理したらどうなるかと思うと、笑いと戦慄を禁じ得ません。
  • ザ・ランニング・マン(バトルランナー)
    「バトルランナー」は邦題。いわゆるシュワルツェネッガー主演のハリウッド映画。いかにもアメリカ的な、頭の悪い娯楽番組のノリで殺人ゲーム。それが大衆唯一の娯楽にして体制維持の道具という素敵社会。原作はスティーブン・キングの変名だか別名だかだと聞いて妙に納得。ただしラストはあくまでハリウッド映画。原作ではどーなってんたんだっけか。映像のインパクトから思わず挙げてみたものの、畏友アイダスキーの指摘通り、「バトル・ロワイアル」の同類項とも言えます。この辺の引き出しの少なさは勘弁して下さいませ(笑)
  • オウム真理教
    悪い冗談としか思えない集団が小説よりも奇なる現実を現出せしめたという意味では画期的とすら言えるかも。一時期「ウォッチャー」の人々が調べ上げた体制やら習慣やらを見てましたが、節操のない継ぎ接ぎを繰り返した結果「ムー」「マヤ」「ワンダーライフ」的なトンデモさ加減を備えるに至った教義のもと、日常性の拘束と死を含む罰則によって規制されたサティアンの生活や、薬物を使ったイニシエーション等々によって体制が作り上げられ、教団内の反動分子はおろか特定個人から社会全体まで、「これはポアだからな。分かるな」と容赦なく殺戮するその様は、今にして思うとある種のユートピア(つまりディストピア)だったんだなー、と思ったので挙げてみます。ただ、リアル社会で人死にが出ているので、時と場合によっては不謹慎の謗りを免れません。ネタとしてはちょっとギリギリの線上かな。しかし、こんな集団が他のどの国でもない日本に誕生した事実は、今なお興味深いと思います。
    ところで、日本における北朝鮮に対する一般のイメージって、(特に個人崇拝や体制妄信の側面において)これに近い受け取られ方をしているような気がしないでもない。

ナチとか共産党なんかは基本だと思うので敢えて省きました。「スターリン・ジョーク」なんか最高ですが。

所詮ユートピアは「現実には決して存在しない理想的な社会」なんだから、「ここはユートピア」って宣伝した時点で既にディストピアなんですな。その宣伝が強ければ強いほど現実とのギャップが際立つ素敵社会が誕生するという寸法で。

まずは今ユートピアに生きていない自分の幸運に感謝、と。

-- 12/15追記 --
説明が足りなさ過ぎるので補っておかないとなぁ。上の説明はそのうち改訂したいところ。

畏友アイダスキーのリンクに各地のツワモノ共が選りすぐったディストピアが並んでいます。皆さん濃過ぎです。私では及びもつきません。ええ全く。

そこでふと思い直したんだけど、確かに「北斗の拳」はディストピアというにはちと不足かも。世界観として有無を言わせぬパワーがあることは衆目の一致するところですが、それが体制や社会を形作っているか?と言われると確かに違う。「カサンドラ」「ゴッドランド」「修羅の国」など光るものはあるんだけど、「北斗の拳」と言うからにはそれらひっくるめた世界として、だもんなぁ。そういう意味では、(アイダスキーとのコメントでも触れてたように)「男塾」がバトル路線でなく極初期のノリを突き詰めたとしたら、ディストピアを形成したかもしれない。

同様の理由で、喉元まで出かかったロンドン(時計仕掛けのオレンジ)も、未来の退廃した世界観ではあってもそれが体制なのか?というところに微妙に躊躇したのでした。

じゃあ替わりに、バーホーベン繋がりでデトロイト(ロボコップ)を挙げようかな。行政をせせら笑いながら自社の企業論理でデトロイトを統治するオムニ社。ある意味これもディストピアと言えるのではないかと。まあ、一番のキモはニュースとCMってのは「スターシップ・トゥルーパーズ」と同じであるところがバーホーベン。ロボコップも2まではこのノリが続いててイイ世界になってると思いますよと。

いやあ、強権とプロパガンダを両輪として終末に突き進む暴走特急みたいな社会って見ててシビれますね(笑)。あくまでネタとして、ですが。

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Comments

From :crow_henmi : 2005年12月14日 17:13

国民クイズを忘れてたのは迂闊でした。これまで上がった奴の中でも五指に入るくらいゴイスーなディストピアなのに。思わず太田出版の復刻版を購入してしまいました。高かった。
 オウムも確かにそうですね。あれはある種のアジールでもあったわけですし、閉鎖的な集団の社会化の過程においてそれがひとつのユートピア/反ユートピア的な方向へと向かっていくのは一種の必然でもあるわけですし。
 北朝鮮とかも、確かにそうした視線で見つめられていますね。ウォッチャーがいて、中で何が起こってるかは断片的にしかわからなくて、僕らの常識からかけ離れた「実態」と銘打った情報が独り歩きしている。こわやこわや。

From :クラウス : 2005年12月24日 07:42

体制(「世の大勢」とも掛けられるが)とそれに与する側の自画自賛への批判・反論・疑問は絶対に許さない。
 やった者への制裁も容赦が無い。
 公的・私的の集団・団体・組織全てに言えること。
 ディストピアの基本とは、こんなとこかな?