Dec.16, 2005

懐中時計を持ち運ぶ工夫

[アンティーク時計のある暮らし]

懐中時計の持ち運びは、意外と悩みの多い問題です。

時計は精密機械であると同時に、工芸品でもあります。当然、無用の衝撃、振動、圧力にさらすのは好ましくありません。ゆえに、持ち運ぶ際にはしっかりと時計を保護する必要があります。

特にアンティークの場合、純正アクセサリーなどというものはまず存在しないため、持ち運び用の入れ物一つとっても試行錯誤の連続となります。しかし、それを楽しみに含める事もまた趣味の一つと言えるでしょう。

実際に身に着けて使用する場合と、単なる運搬の場合では自ずとアプローチが異なってきますが、ここでは「運搬」に絞った例を挙げていきましょう。

1.安い・早い・旨い既製品転用路線

安価で手っ取り早い方法は、現代の小型精密機器、つまりデジタルカメラや携帯電話向けの製品を転用することです。大半は合成素材製なので高級感には欠けますが、機能性が高く安価であることが多く、実用性を重んじるならば無視する手はありません。ただし、想定される用途と異なるため、サイズや使い勝手の点で満足できるものを探すには少々苦労が伴うかもしれません。

こういうデジタル小物用のアクセサリーには、色々使いでがあります。
緩衝材込みで、16サイズの懐中時計が納まります。18サイズはちょっと厳しいか。
上手く使うと、懐中時計が卓上時計に早変わり。かなり実用的です。

ここではまず一例として、デジタルカメラ用品であるバッテリーポーチを転用する例をご紹介します。

単三電池四本程度を想定したセミハードケースですが、これが16サイズの懐中時計によく合います。ただ、これだけでは心許ないので、内部に緩衝材を入れてあります。

緩衝材はそこら辺のスポンジでも充分だと思いますが、私は東急ハンズで買った低反発素材を使っています。「NASAで開発された」とか眉唾モノの宣伝文句がアレですが、機能性に関しては文句なしです。ただ、えらく高価いのであまり人様に胸を張ってお勧めはできません。この辺はお好みでどうぞ。

実際に緩衝材を入れてみると、緩衝材込みで時計が過不足なく収まってくれました。ケースを閉じると適度なサポートがあり、中でガタついたりもしません。この状態でなら鞄に入れておいても問題ないでしょう(無論、鞄の中でゴロゴロ転がるような入れ方はすべきではありませんが)。

さらにこのケース、開いた状態で時計を縦に入れると卓上時計に早変わりするというスグレモノです。私は、身に着けているものの他、こうやって懐中時計を卓上時計として使いながら悦に入っています(笑)。

2.一味違うこだわりのDIY路線

こういう趣味が高じてくると、いつの間にやら懐中時計が増えてきます。「一個あれば充分」と思っていても、気が付くと増えているのです(そしてお金は減っているのですorz)。

そうしたコレクションをまとめて持ち運ぶにはどうすればいいか。

前述の路線であれば、今度はPDAや電子手帳用のケースを中心に転用候補を探していくことになるでしょうか。しかし、それでは面白くない。いかに本命は機械であるとはいえ、もうちょっとアンティークらしい、雰囲気のあるコレクション・ケースが欲しいものではありませんか。

そんなわけで、自分なりに少々こだわったケースを作ってみました。…とは言っても、全てをフルスクラッチなどはしていないので念のため(笑)。

まずは、ケースに求める要件を定めます。これを怠ると、途中で何を作るっているのかわからなくなったり、中途半端な代物が出来上がるのがオチですから。優先度の高い順に列挙するとこんな感じです。

  • 懐中時計を保護しつつ安全に持ち運べる
  • 16サイズの懐中時計5~6個程度を収納できる
  • 予算は数万円程度まで
  • アンティークに相応しい雰囲気。
  • できれば高級感もあればいい

この要件から、ケースのサイズが導かれます。16サイズの懐中時計はケースの外径が50~55mm程度、ペンダントの突出が20mm程度あります。これらを並べ、緩衝材で仕切っていくと、B5サイズより一回り小さい位の内法がある箱があれば良さそうです。

さて、アンティーク時計に合う雰囲気というと、まず紫檀や黒檀、オーク等の高級木材で出来た重厚な箱を思い浮かべますが、あんまり仰々しすぎて持ち運び自体に支障が出ても困りますし、箱が勿体無さ過ぎて箱を入れる箱が必要になったりしたら本末転倒です。

そこで、次に思い浮かんだのが「革のトランク」。持ち運びにはうってつけですし、何より「お出かけ」という雰囲気に、ちょっとした遊び心が込められそうです。よし、これで行こう。

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「ミニトランク」というとよく出てくるユーラシアの豚革トランク。高さが11cmもあるので、今回の用途にはあまり向きません。

ところが、このトランクというのが曲者でした。なかなか良いサイズのトランクがないのです。必要なサイズからして「ミニトランク」というカテゴリーになるのですが、いくら探してもサイズが合わない。どれも底面に比して背が高過ぎで、これではトランクというよりピクニック用のランチボックスです。入れるのはサンドイッチじゃなくて時計なんだってば。完全なオーダーメイドにすればどうにでもなるのでしょうが、十万円も二十万円もかかるのではいくら何でも予算オーバーです。

しかし、諦めずに探してみるもので、やっと見つけたのがシルバーレイククラブのミニトランクケースです。大きさが手ごろで、何よりも高さが55mmに押さえられている点がポイント。つまり、トランクのミニチュアなんですね。材質はオイル仕上げの牛革で、ちょっとレトロな、いかにもトランク然としたデザインが今回求めるイメージにぴたりと合致しました。メーカーからして「使い道を探すのも、このバッグの楽しみ方・・・かな?」とのたまうお遊び商品ですが(笑)、今回まさにそれが必要だったのです。どんな物に仕上がるか、まあ見ていて貰いましょう、とばかりに注文しました。


やっとの事で探し当てた、シルバーレイククラブのミニトランク。「トランクのミニチュア」といった作られ方をしているので、トランクらしい形になっています。造りも本格的で今回の用途には最高。

さて、良い箱が手に入ったので、続いて時計を収める部分を作っていきます。究極形は真紅のベルベット張りといったところなんですがちょっと私には無理なので(笑)、基本的に緩衝材を整形しただけの機能性優先の造りにします。

内部レイアウトのイメージ。時計のサイズは微妙に違うので、最大公約数的な寸法(より僅かに小さめ)で配置。
時計が収まっているところ。ちょっと壮観?
くり貫いた部分は取っておいて、必要に応じて隙間を詰める。
アクリルで味気なかった蓋を精一杯飾りつけ。なかなか味のある雰囲気に。

まず、時計のレイアウトを決めます。内法を一杯に使いつつ、できるだけ均等に配置します。時計と時計の間にも緩衝材は必要なので、あまりギリギリに隣り合わせるのはよろしくありません。結果的に、6個収納とするのがベストということになりました。このイメージを原寸で印刷しておきます。

時計の収納部は土台、仕切り、蓋の三層からなります。土台と蓋は時計を支える役割を持つので、ただ緩衝材を敷くだけでは不足です。そのため、2mm厚のアクリル板を切り出してベースとし、ここに緩衝材を張り合わせて固定します。緩衝材には以前使ったメモリーフォームを使いました。厚さは基本的に10mmで、蓋部分のみ5mmにしています。計算上は合計30mm程度。高さの55mmに比してスカスカなイメージがありますが、トランクの上蓋の裏にポケットが張り出しているため、実際に合わせてみるとこれでほぼピタリと収まりました。やはり最終的には現物合わせでの調整が必要です。

仕切り部分は時計の形に合わせて切り抜きます。先に印刷しておいた紙を型紙としてくり貫きますが、くり貫いた部分は捨てずに取っておきましょう。6箇所全てに時計を収める場合は別ですが、時計の入らない部分にはくり貫いた部分を元に戻して埋めておきます。仕切り部分はただの緩衝材なので、くり貫いた部分を空にしたままにしておくと、隣の時計の重みによって中身が歪んでガタついたりするためです。

蓋部分にはもうひと工夫が必要です。トランクを開けていきなり見えるのが両面テープや合成素材が透けて見えるようなアクリル板では、折角トランクで醸し出した雰囲気が台無しです。何とかしなければ。

本来、蓋のベースはアクリルではなく紫檀か黒檀の板にしようと思っていたのです。しかし、このサイズをカバーする一枚板などまず売っていませんし、あったとしても非常に高価。

そこで苦肉の策として、アクリルにツキ板と呼ばれる厚紙程度の厚さにスライスされた板を張りました。磨いてウレタンニスで仕上げると、一応表面はローズウッドでございます(笑)。もう一声!とばかりに、真鍮の金物で隅を飾りました。だんだん雰囲気が出てきましたよ?

最後に、中央に何かアクセントをと思ったのですが、この蓋は裏返してトレイ代わりに使うものなので、四隅の金物はともかくとしても、中央が張り出すのは好ましくありません。どうしようかな、と思ったのですが、ここは一念発起、0.5mmの銀板から十字を切り出し、ヤスリで仕上げて貼り付けました。本当は木を削って埋め込めれば最高なんですが、無垢材ではないので…(苦笑)

こうして、ほぼイメージ通りに仕上がった懐中時計コレクションケース。自分では結構満足しているのですが、如何でしょうか?

PS.
縁とは異なもので、このケースの話がメーカーの製作者のところまで伝わり、いたく喜んで頂いたそうです。「こんな使い方は思いもよらなかった!」と。そりゃそうだ(笑)

PS2.
そんなこんなで自慢たらたらで持ち歩いていたこのトランク、ちょっと目を離した隙に畏友さら丼に強奪され、ドール撮影の小道具にされてしまいました。何をするデスかーッ!?
こんな写真撮られちまってまぁ……。中身は私のひと財産orz
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