時計の記憶を覗いてみよう
アンティーク時計というものは、基本的に中古品です。中古品であるということは、自分の手に入るまでの間には幾人もの持ち主の手を経てきたわけです(一度も販売されなかったデッドストック品はこの限りではありませんが…)。
当時の時計とは、大枚はたいてやっとの思いで手にしたものであったり、様々な思いが込められた贈り物であったりしました。
自分の手に入るまでに、その時計がどんな持ち主のもとで過ごしていたのか。時計に残された僅かな痕跡から、そんな来歴に思いを巡らすのもまた一興です。
上は私が持つ時計です。裏蓋にメッセージが刻まれています。…読んでみましょう。
Richard Coxe Rice
From his FATHER and MOTHER Christmas 1905.
For good work in College.
…このリチャード坊やってのはパパとママからクリスマスプレゼントに何貰ってやがるですか!?しかも"good work"といっても、学校からの表彰ではなくてあくまで親からのご褒美。
当時の時計の値段を考えると、この程度のことにこれほどのシロモノを持って来るからには結構な裕福層ではあったのでしょうが……。親馬鹿なのかドラ息子なのか。もっとこうぐっとくるロマンはないのか!?
……なんか当初の思惑からは外れた結果が出てまいりましたが、このように、アンティークを手にしたなら、その機種やメーカーのみならず、当時の背景や持ち主にまで思いを馳せることができれば、その時計はより重みを増していくことでしょう。それは"Timepiece"の名の通り、まさに「時の欠片」です。
もっとも、当のリチャード君も、まさか親からのクリスマス・プレゼントが極東に渡る羽目になるとは思いもしなかったことでしょうね(笑)。
ともあれ、今は私の宝物です。