Jun.15, 2006

たまには読書もしなければ。

[Diary]

ロベスピエールって、畏友すめるしゅ丼がヅラを被って化けているとしか思えないよね、とか内輪ネタに走ってないで、少しは歴史の勉強らしいことを。

というわけで、こんなん読んでたり。マリンクロノメータ開発史…というより、ジョン・ハリソンの伝記かな。分量としては新書一冊相当、軽く読める程度です。

経度への挑戦―一秒にかけた四百年経度への挑戦―一秒にかけた四百年
デーヴァ ソベル Dava Sobel 藤井 留美

翔泳社 1997-07
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大航海時代にあっては、航海術というものが死命を制する問題でした。ひとたび航法を誤るとそのまま遭難に直結するわけで、それでなくても革製品を煮て喰うとか、壊血病の恐怖なんかは帆船好きの方には御馴染みなんではないでしょうか。ザワークラウト万歳。

さて、当時の航法技術では特に経度が判らないことが問題でした(緯度は太陽や星が見えればそれほど苦労なく得られた)。ひとたびランドマークの見えない外洋に乗り出すと、例えどんなに精密な海図があったとしても、経度が判らない限り現在位置を知る事が出来ません。

これに対応する方法は二つ。

一つは、出発地からどの方角にどれだけの速度で何時間進んだかを記録し、現在位置を割り出す方法。「推測航法」としかめつらしく書くこともできますが……。方角はまだしも、速度は丸太や綱を流して計り、時間にいたっては、日に15分の狂いは当たり前の機械式時計(酷い時には砂時計)で計る有様。これを最終的に人間の経験とカンによって補正し(と称してこねくり回し)ていたので、往々にして結果は無残なものだったようです。

当時はとても実用できなかったこの推測航法、力技ではあるものの理屈自体は間違いではないわけで、数世紀を経た現代になってから「INS(Inertial Navigation System:慣性航法装置)」として復権を果たします。加速度を検出して積分することで三軸の移動距離を出し、積算すれば基準点に対する相対位置、すなわち現在地が把握できるというわけです。外部からの情報が一切必要ないので、軍用(特に潜水艦)にはうってつけ。

ただし、実用に到るにはジャイロスコープ(後にリングレーザージャイロ)の登場を待たねばならなかったわけで、大航海時代にはあまりに早すぎた方法だったというべきか。

もう一つの方法は、経度に頼らず緯度のみを頼ること。緯線に沿って東西方向に直進すれば、現在地には関係なく、いずれは目標に行き当たるという理屈ですが、この方法で往来できる「航路」が限られるという問題がありました。何せ大航海時代のこと、新大陸のお宝を満載した船が通る航路がバレバレ、というのは物騒極まりない話です。その価値は一隻でイギリス国庫の半年分に匹敵したという例すらあり、奪われればとんでもない損失になりますし、奪う方も殺る気満々。かくして、個人営業の海賊から一国の海軍に到るまで、掠奪のための艦が鮫のように航路沿いを徘徊するようになりました。

そこで(特に自衛能力に限界のある商人達に)切望されたのが、こうした航路を避けた秘密の抜け道、すなわち自分専用の航路の開拓なのですが、ここで経度の問題が再浮上します。経度が判らなければ航海は迷走あるいは漂流の同義語であり、行き着く先はサルガッソーかバミューダか。しかし、それでも獲物を求めてうようよしている敵艦を避けられるなら(あるいは新天地発見の為なら)と、様々な方法が試されました。

実は、経度を知る非常に簡単な方法自体は既に知られていました。基準点の時間と現地時間の正確な差を得られれば、それに角度を掛けるだけ。小学生レベルの算数です。ただ一つ、「基準点の時間に正確に同期した時計」というものが海上に存在しないという問題を別にすれば。

当時にも機械式の時計はあったものの、航海中の環境にはとても耐えられず、精度については惨憺たるものでした。一日15分の狂いは当たり前、温度が一度変われば10秒は狂うという時計では、まともな航法は不可能です(一分≒一海里と考えると、その誤差の大きさが解ります)。しかも、航海は一日こっきりで終わるものではなく、何週間何ヶ月間と続くわけで、航海を通じて誤差が累積した日には、最終的な誤差は百キロ単位に拡大してしまうのです。実際、座礁や遭難は後を絶たず、「何とかしなければ!」という機運は次第に高まっていきました。特に、海洋国家を自認する大英帝国においては。

そこで、イギリス議会が制定したのが「経度法」。海上で経度を確定する「実用かつ有効な」手段を見つけた者に、「国王の身代金に相当する」賞金(二万ポンド)を与えるというものです。こうして、経度を巡る賞金レースの幕が切って落とされたのでした。

法律の条文なのに「国王の身代金相当」などという表現を入れるあたり、実にイギリスらしい諧謔趣味を感じさせてくれます。大英帝国が問題をどれほど重視しているかを示したかったのだろうか。(追記:別にそういう話ではなかったようだ)

レースに勝つ為には、海上という苛酷な(温度、湿度、気圧全てが変動し、しかも不規則に動揺する)環境でも正確に動く時計を開発するか、全く新しい代替手段を開発するかのどちらかが必要でした。その前者として登場したのが、今回の主人公であるジョン・ハリソンというわけです。

ここからは、まあ有体に言えば「プロジェクトX」ばりの艱難辛苦~達成という話になります。それなりに興味深いエピソードはいくつかありますが、技術的に突っ込んだ事は書かれておらず(Hシリーズにはない筈のアンクルに宝石を、などという、どう訳したのか解らない間違いもあり)、あくまで伝記あるいはドラマとして読むべきだという点が共通しています。

実は私、大航海時代にはさほど興味がなかったのですが(汗、こういう側面から見ていくと、なかなか興味深く読むことが出来ました。面白みを感じるポイントが少しズレているのかも?

ところで、後に過剰演出や捏造が叩かれた「プロジェクトX」ですが、あの番組に足りなかったものは唯一つだと私は思います。曰く、

この番組はフィクションであり(以下略

この一文さえ入ってれば良かったのです。だって、番組冒頭では「これは~(中略)男達の、ドラマである」ってナレーションしてるんだから。

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Comments

From :くらーへ : 2006年06月15日 22:06

> 「国王の身代金に相当する」

「~の身代金に相当する」というのは何回か文献で見たことがあるので、慣例で使われている決り文句なのかも?

西洋の封建社会では国王が臨時の税をかけても良い条件てのがあるんですが、

・国王の長男が騎士叙任する時
  ・国王の長女が結婚する時

ここまでは良いとして最後

・国王が捕虜になった際の身代金

こういうのがある位なので、よく捕虜になったんでしょうね(w
(「身代金を搾り出す為に課税したら反乱起きたorz」という笑えない例もあるとか)

From :PsyonG : 2006年06月16日 02:13

おおくらーへ丼、それは良い事を教えて下された!
(つーか歴史に関する無知を露呈したとも云う。無知と貧困は人類の罪悪だ!)

思わず今日的な感覚で反応してしまったけど、ジョークじゃなかったんだなぁ(w