SLEPするぞ
寿命の尽きかけた何かを延命する計画(Something Life Extension Program)。略してSLEP(強引)。
今日のお題はコレ。
MS製の大型球を採用した光学式トラックボールです。常人より手がデカい私には丁度良いサイズだった上、プログラマブルスイッチやホイールを備えるなど、使い勝手が良い割には実売価格7000円程度と、非常にお買い得だった一品。あんまり気に入ったので仕事用と自宅用にそれぞれ買ってしまったほどです。
……が、何事も完璧ということはないもので、このデバイスにも一つ泣き所があります。ボールを支持する部分に使われている鋼球が磨耗することで、ボールの回転が重く粘りつくような感じになってくるのです。
入力デバイスにとって使用感の劣化は致命的。修理すればいいという話もありますが、またすぐに同じことの繰り返しでは意味がない。
しかし偉大な先達というものはいるもので、この欠点を根本的に解消する方法が編み出されています。磨耗の早い支持球を、より硬い材料に交換するわけです。折角なので実践してみました。
まずは本体を分解する必要があります。とはいえ、球を外してネジを外すだけ。エルゴノミクスな造形こそされているものの構造自体はシンプルです。出来の良い機械とはかくあるべき。
上下に分解したらアッパーフレームから球の支持部を取り外します。
支持部には鋼球が埋め込まれています。これからそれを交換していきます。
今回、交換に使うのは半球状に加工されたルビーです。
2mm球があればベストだったのですが、球はなく、直径も最小3mm。ガーネットなら話は変わるのですが、ここはやはりルビーでしょう。時計の軸受けとしても私には馴染みの深い素材です。
元の鋼球をそのままに新しくルビーを設置する方法もありますが、干渉したら嫌だし仕上がりがイマイチ美しくないので、今回は交換で行く事にします。
まずは元の支持球を外す必要があります。穴にはめ込まれているだけで接着まではされていないのですが、手掛かりがあるわけではないのでそのままでは外せません。
そこで、今回は裏から穴を開けて叩き出すことにしました。なるべく細いドリルで穴を開け、そこから針を突っ込んでハンマーで叩き出すだけ。この穴は後で役に立ちます。
穴から叩き出した球をキズ見で見ると、確かに一部が磨耗して平らになった部分があります。顕微鏡で撮影しないと載せられないくらいのものですが、たったこれだけのことで使用感が損なわれるのだから大変です。
さて、交換するルビーは元の穴より大きいので、穴を広げる必要があります。ルビーと同径のドリルで穴を広げますが、ここが一番神経を使うところです。
入れるルビーのサイズが違うので、元の穴は位置決めの役には立っても深さは自分で決めねばなりません。支持部の高さはたかだか0コンマ何ミリ。その出っ張りを残して綺麗にルビーを収めるのがポイントです。
こればかりは、仮組みを繰り返すしかありません。穴にルビーを入れ、実際に球を入れて引っかからずに回るか確かめながら調整していきます。穴を掘りすぎると詰め物で嵩上げをする必要が出てくるため、話がややこしくなります。そんな羽目にならない為にも、焦らずに少しずつ進めていきます。抵抗なくするすると回るのが理想ですが、最終的にちょっと注油しないとその域には達しないので、まずは渋ったり引っかかったりしない所を目指します。この際の石の取り外しや、石を真っ直ぐ穴に納めるための微調整に最初に開けた穴が役に立ちます。穴から針を入れて石の向きを微調整します。
石の位置が決まったらいよいよ仕上げ。爪楊枝の頭を使い、エポキシ接着剤を穴の内側に薄く塗ります。そこに石をセットしたらあとは硬化を待つだけ。薄く綺麗に塗れてればはみ出すことはまずない筈ですが、万一はみ出してたら、硬化後に切り取ってしまいます。ヘタに硬化前に弄ると拡がって手が付けられなくなります。
接着剤が硬化したら組み立てて動作を確認し、問題なければ最後にシリコンオイルかテフロンオイルをごく僅か、石に注油して完成です。この手のオイルはスプレー式が多いので、一度何かに採ってから楊枝の先などで丁寧に注油しましょう。付け過ぎるとボールがベタついて気持ち悪くなります。
こうして無事改装を完了したトラックボールは見事復活。実に快適に使えています。自分で手をかけたことで愛着も増し、ますます手放せないデバイスとなりました。