May.14, 2007

最近、こんなことを始めてみたり。

[Diary]
こんな雰囲気。

すなわち、和弓を以て矢を射る一連の所作を通じて求道するところの弓道。

旧友に伝手があったので田舎に戻ったらやってみようと思っていたのだが、何だかんだやってるうちに始めるまでに半年ばかりかかってしまった(何やってんだか)。

和弓というのは不思議なもので、同じ弓矢でも洋弓とは根本的に構造が違う。

和弓のサイズは標準的なものでも2メートルを超え、中世ブリテンで有名だった長弓(ロングボウ)よりもさらに長い。形も大半が対称形の洋弓と違って和弓は上下非対称(中央より下寄りを把持するので上に長くなる)で、複雑な曲線(反り)の複合によって構成されている。

こうしたシルエットの優美さや美術・工芸品的な外見上の要素の違いは、西洋風の剣と日本刀の違いに通じるものがある。しかし、精神的(儀式的、呪術的)な要素の移入具合についてはその違いはさらに際立っているように思う。実用品あるいは兵器としての性格が前面に出がちな洋弓に対し、和弓はその姿や放たれる矢のみならず、矢を放った際に弦が弓を打つことで発する弦音(つるね)にまで破魔・破邪といった属性が結び付けられており、神器としても用いられる点などはその一例だろう。

能書きはともかく。

実際に和弓を自分の手で引いてみると、外見から想像される感覚、それまで漠然と「弓矢」というものに対して抱くイメージとは全く違うことに戸惑わされる。

そもそも対称をなしていないものが調和と均衡を作り出しているということは、つまるところあらゆる場所に存在する全く別々の要素が実に微妙なバランスを保っているからそう見えるということ。何処かひとつでもバランスが崩れれば台無しなわけで、右も左も解らない藤四郎が適当ぶっこいてやるとどうなるかとゆーと。

痛くなければ覚えませぬ。

以下教訓。

  • 弓は腕力で引いてはならない(しばしば骨で引け、と云われる)。力任せに引いてみたところで、余程の筋肉達磨でもない限りすぐに破綻する。姿勢をちゃんと作ると嘘みたいに抵抗がなくするりと引けるから不思議だ。
  • 和弓の場合、弓を引くという動作は「引いて離す」という一言で表現できるものではない。身体が弓に対してかけているテンションや弓と弦から加えられる反動をベクトル化したとすると三次元に交錯していて、そのいずれが欠けても全体のバランスは保てない。
  • 「手の内」、すなわち弓の握り方はキモ中のキモ。「手の内を見せる/隠す」という慣用句がここから来ているという説の信憑性を痛いほど感じる(これがなってないから腕があんなザマになったので嫌でも理解できる)。事実かどうかはともかく、真実には違いない。
  • アーチェリーと違ってサイトなんか付いてない。狙い云々の前に、立ち位置、姿勢、矢を弓に番える位置、引き手の位置、どれ一つ違っても矢の行き先は変わる。
  • 一定以上の技量を持つ者が矢を放つと、弓が300度以上回転して(返って)弦が手の甲に触れるところまで来る。が、これは結果であって目的ではない。外見だけ見て適当に真似をしようとするとえらい目に遭う。

これを見ている人に弓道初心者なんてのがいるかどうかは解らないが、最初はとにかく「錬士」<「教士」<「範士」の称号を持つ、あるいはそれに準ずる方に見て貰い、その場その場で直ちに矯正を受けながらやるべきだと思う。何処か一点でもおかしい処があると、耳を打ったり頬を打ったり腕を打ったりと、とにかく痛い目に遭う‡1し、痩せ我慢して自己解決を図っても傷口が広がるだけなので。

前述のように、体の各部にそれぞれ別々の(それも、外から見ているだけでは想像も付かないような)仕事をさせなければならないので、それこそロック・クライミングか何かのように、手がかり足がかりを少しずつ、少しずつ進めてモノにする以外にやりようはないと思った。

とまあ、これが三~四週間ばかり、それも毎日やってるわけでもないFNG‡2が現在進行中の境地。「右手は額の拳一つ上。Four inches, pyle!! Four inches!!」などと脳内軍曹に怒鳴られながらやってたり。

もちろん現状は技量以前の問題で、的を狙って引いたところで命中率は二割もない(二手(一手=二本)に一本も当たらない)し、当たったところでたまたま誤差が誤差を打ち消しただけだろうと自分でも解るので当たり外れを云々するだけ無駄。

今は当たり外れよりもむしろ、たまに姿勢が決まった時の手応えの爽快感の方が鮮烈かも。抵抗というものがなく、力の始まりから反動の行く末までが実に自然に流れ抜けていく感覚は「出来ておる喃」と脳内虎眼先生のお褒めに与かる次第。それで当たれば云う事ないけど、そんなの一日に一回あるかないかとも云う。

射法などの技術論はほんの入り口で、礼法から哲学まで先はいくらでも続くけど、今から気にしてもしょうがないので出来るところからやっていこうと思う今日この頃。

  • ‡1: いささかアレな話ではあるが、実際にやってみると女子に何故胸当てが必要なのかよく解った
  • ‡2: F**kin' New Guy:新兵
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