Feb.25, 2008

トーゴーのポケットウォッチ

[Mechanical Watch]

時計ネタが書けていないとのお叱りがあったりなかったりするので(苦笑)、ちょっと小ネタを出してみます。少しでも期待があるうちが花ですし;

先日東京からの帰途に組み込ませて貰った身内の小旅行で広島・呉を回ってきました。宮島に始まって呉の大和ミュージアムに旧海軍兵学校(現・海上自衛隊術科学校)などを見学してきました。術科学校については、見学の十数時間後にえらい事故が起こってしまったので、ああいう駄洒落まみれで長閑に見学を楽しめる雰囲気が続いてくれるか微妙なところ。

あと、こういう旅を楽しむためには歴史の知識というものをもう少し持った方がいいよな、と思ったものの思っただけだったり。歴史に興味を持つきっかけってのはどうすれば出来るものか。政治とか派閥抗争とかいうネタにはまるきり興味がないからなぁ。やはり科学技術方面からのアプローチが有効か?

さて、今回のネタは、そんな小旅行中にミュージアムで見かけた一品、東郷平八郎元帥愛用の懐中時計とされるものです。

大和ミュージアムにて。

通常の懐中時計に比べて大きさがかなり大きく、ケース外径で70~80mm以上あるように見えます。また、オープンフェイスというレイアウトながら、文字盤の右肩に何やらツメが出っ張っていたり、秒針にしては妙にゴツい針があったり、竜頭がやけに大きく引き出されていたりと、通常の懐中時計とは違う点もいくつかあります。

外箱マーク付近のレターは、

BY APPOINTMENTED H.M.THE KING

THE GOLDSMITHS & SILVERSMITHS COMPANY LTD

(xx) RESENT ST LONDON

(xx)部分のみ判読不能

…となっており、ロンドンのショップ銘と思われます。さて、天下の名提督が愛用するイギリス製の大型懐中ともなれば、これは最高級のクロノメータか!?と思わず期待してしまいますが、それにしては「ぼたっ」というか「もたっ」というか、いまいちパッとしない印象。ケースがどうも高級感に欠けるし、そもそも文字盤が傾いているのは何故?鍵合わせでもないのにこの反時計回りの矢印は一体?と首をかしげる点もあり。そんなわけで馴染みの店に写真を送って訊いてみました。

結論から言うと、そもそもイギリス製というところから大間違い(箱と時計が合ってない)で、典型的なスイス製のアラームである可能性が高いとのこと。製造時期は推定で1900年前後、ムーブメントももちろんスイス製ではあるものの、さして高級なものではないだろうと思われるそうです。

そう言われて改めて見てみると、秒針にしては妙だと思ったこのゴツい針が恐らく12時間で一周する時・分・秒に対応するもので、ベゼルにあるあのツメと一致した時に鳴り出すものだろうと推測できます。文字盤の反時計回りの矢印はベゼルごとこのツメを回す方向ということになります。あー、なるほど。ちょっと野暮ったいケースや傾いている文字盤など高級機とは思いがたいポイントも、スイス製の普及品ということなら納得。外見だけでの鑑定なので絶対的に正しいかどうかは保証できませんが、筋は通っていると思います。

決して高級なものではない可能性が高くなったわけですが、それが「東郷の時計」としての価値を減ずるものではないでしょう。確かに技術的価値や美術性でもってその希少性を確立した逸品というものもありますが、凡庸な品であってもその持ち主と刻んだ時間によって唯一無二の一品となるということを証明しているように思います。そういえば、リンカーンが愛用していたという懐中時計も決して高級なものではなかったと何かで読んだ覚えがあります。

歴史的な偉人ならその持ち物も最高級品か、と思わず先入観を持ってしまいがちですが、王侯貴族の生まれでもなければ‡1そうそうあり得ることではないのだと自分の思い込みを反省した次第。

またどこかでこんなタイムピースが見られればいいな、と思った一幕でした。

  • ‡1: 置時計ばかりだったけど、ナポレオン展の時計は贅沢なのが多かった
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