Jul.13, 2012

海賊ですよ、海賊!

[My Favorite]

「モーレツ宇宙海賊」全26話が、近年になく面白いシリーズだった。

何が面白いかって、無重量空間をミニスカ女子高生が飛び回りながらパンチラひとつ(いやまぁ全コマ調べたら少しは出てくるかも知らんがw、少なくとも前面に押し立ててないという意味で)見せず、ラブコメもハーレムもなしに、正面からスペオペとして爽快に描ききってくれたこと。

気に入ったので設定画集とか久々に買った。

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ポストメディア編集部

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せっかくなので、ファンの率直な『感想』として、面白いモノを『面白い!』と記しつつ、自分が知る範囲でネタと解釈など挙げてみようと思う。

ただ、本の方は数冊をほとんど家に置いてきたもので、記憶違いによるミスがあったらゴメンナサイ。

こんなファンによる感想

監督の佐藤竜雄氏のことはwikipediaの記述以上のことは知らないが、ナデシコやステルヴィアは好感を持って観た憶えがある。特にナデシコの場合、キャラクターデザインが好みでなかったため実際観るまでにかなり抵抗があったのを実際に観て評価を改めた、という経緯があったりもする。

いくつか今作についてのインタビューがあったので一読しておく。

笹本祐一氏の方はというと、富士見版のRIO(挿絵に実写の女性モデルが使われていたせいで、本屋のレジに持って行けないまま買いそびれたあの夏の思い出w)以外の単行本は全部買った程度には好きな作家。ああそうだよ昔っから読んでるよ言わせんな恥ずかしい。

世界観

日常生活を取り巻くガジェットの数々、そのインターフェースが興味深い。単純なハイテク一辺倒ではなく、わざわざ立体映像で「手紙」を擬したメッセージを操作したりするようなアナログ回帰とか。また、エヴァほどどぎつくない自然体で日本語を馴染ませてあるのが印象的だった。

宇宙船はデザイナーによっても違うが、海賊船は何となくレトロフューチャーっぽいスタイルでありながら、各所のギミックなどのメカ感が良く出てたように思う。オデットII世の船首が衝角になってないのは原作三巻の時点で始めたからだろうが、シャープで旧式船とは思えない格好良さ。

キャラ造形

原作(イラスト)→キャラクター原案→キャラクターデザイン(作監)とそれぞれ別人の手を経てアニメ版のキャラクターが出来ているわけだが、設定画のコメントなどを見ていると、それぞれが自分の立場でキャラクターを解釈して、明確な意図を持って仕上げていることがわかる。なので、主要キャラについてはここでは云々しない。

設定画集のコメントではやけにシュニッツァーが愛されているようだがw、実際非人間的な外観であるがゆえに人間以上に人間臭さを感じさせる良いキャラクターになっていたように思う。作監が『作画の手間を省くためにマントを被せた』というのも面白い小ネタか。

個人的に注目したのはグリュンヒルデ・セレニティ。原作ではかなりあっさり流されていたが、アニメではグリューエルと対を成す存在としてキャラ立てがなされ、準レギュラーとして扱われている。設定画集には載っていない(コメントでデザインの存在は言及されている)ものの、キャラクターとして真摯に扱われた結果であることを伺わせる。

また、原作では幹部を除いてモブ扱いだったヨット部員達にもモブらしからぬ詳細な設定がつき、この辺の仕事の真面目さ・丁寧さは拍手モノだと思う。群像劇ではないとはいえ、これだけの数のキャラクターが個性を持って動き回るアニメって、自分の経験ではリヴァイアス以来だったかも。

ただ、ケンジョー・クリハラの造形ががらりと変わったためだとは思うが、『愛娘の艶姿を見て感涙にむせぶケンジョー』は個人的に原作中のお気に入りシーンだったので、映像化されなかったのが惜しまれる(その分は、25話終盤で回収してるという話もあるが)。

小ネタ1

ランプ館の制服デザインが、実在するメイド喫茶「シャッツキステ」の制服が元ネタだと設定画のコメントにあって吹いたw。

一時期知人がどハマりして狂ったように入り浸っていたため、釣られて(何せ、会うとなると待ち合わせ場所が自動的にそこに設定されるのだから!)何度か行ったことがある。いわゆる『秋葉原のメイド』としてはかなり異色というか別格というか、そんな感じだったように記憶している。エプロンにハートのアップリケがあったかとか地位によって丈が違うとかいうネタは記憶にないのだが、何分雑居ビルの上の隅っこにあった頃の記憶なので。

小ネタ2

全員が直接顔合わせするシーンはないけど、DS組の三人が出てるよ!

(それよりももクロのカメオ出演の方を拾えよという指摘)

シリーズ構成

制作時にあった原作が三巻分ということで、原作準拠のストーリーはアニメ18話まで。幕間となる19話および20〜21話、そして22〜26話がオリジナルエピソード。

さて、終盤のオリジナルエピソードを観て、既視感を覚えた人はどのくらいいるだろうか。

実は、『海賊狩り』グランドクロスと海賊との戦いの構図は、原作者の別著『星のダンスを見においで』(以下、別著)の終盤と共通点が多い。これをどう観るか?

まず結論から言えば、両者の因果関係はおそらくない(監督インタビューにおける企画示唆時のやりとりや終盤の構想を語る部分と、原作者のノータッチ宣言を併せて推測)。だからこそ構図が似ているのが興味深いと思って、対比してみる。

機動戦艦グランドクロスは別著のデンデロベイバー級打撃戦艦ゼラと対比できる。コンセプトは大きく異なる(重力制御による高機動とシールド/準光速弾を直撃させても中破止まりの防御力)が、『未知の新鋭艦』というポジション、目標の頭を抑えつつ投影面積を最大にして攻撃力を最大にする(直立/Tターン)という運用に共通点が見て取れる。

『未知の新鋭艦』に主人公の乗艦(弁天丸/ヴァイパー)が大破させられ、修理とアップデートを行う展開と、アップデートの方針(指揮通信機能を最優先、機動力強化、武装は二の次三の次)も同じ。

『未知の新鋭艦』に対し、海賊は艦隊を組んで対抗する。その骨子が、各艦の戦闘情報回線の直結による『情報戦』にあるという点が同じ。戦闘中も敵味方の位置情報を未来予測まで含めて全艦で共有するなど、象徴的な描写が共通している。

そして、最終的に『海賊連合選抜メンバーによる敵旗艦への接舷斬り込み』で決着を図るという戦術が同じ(別著では白兵戦の最中に『星のダンス』が始まり、決着は明かされていない)。

こうした相似は、SF的な筋立て、物語としての『王道』観など、さまざまな部分で原作者と監督の感性が通底していることを示唆しているのではないか……と言ったらさすがに穿ちすぎか。ともあれ、ファンとしては、今回の組み合わせがとても幸運な巡り合わせだったという実感を新たにしたのだった。

個人的な比喩になるが、このハマり具合の快さは、虚淵玄が「BLACK LAGOON」のノベライズをやらかしてくれた時に匹敵すると思っている。

最後に

そして、最後のネタは設定画集の対談コーナーから。

「『宇宙モノは古い。金にならない』と宇宙モノの企画が次々と潰れていく中、『はやぶさ』(MUSES-C)の地球帰還が話題になって風向きが変わった……かも」(意訳)という話に、何となく奇縁のようなものを感じた。自他共に認めるロケット狂である原作者の企画が、自ら取材した『はやぶさ』のお陰で巡り巡って世に出たのだとしたら、何とも粋な巡り合わせではないかと思う。

劇場版がどんな出来になるか、実に楽しみ。

PS.

原作者がtwitterで

怖いもの見たさでETVのRの法則「ラノベの世界」を見てみようと思う。18:55スタート。

と実況を始めたのを見てたら案の定、「えーい酒持ってこい」的展開にw

まあ、「『面白いモノを作ろうとした結果』がラノベと呼ばれる」と「『ラノベを作る』」は根本的に違うんだから当然の帰結ですわな。

これはもう「『自分が美味いと思うモノを喰ってみたくて』出汁からあれこれ工夫する料理人」と、「『売れる商品を製造するべく』うま味調味料を混合するバイト店員」くらい違う。『純粋化して抽出され簡易に使えるが、ぶち込み過ぎて味覚が飽和』という意味において、『萌え』ってまさしく化学調味料だと思う。

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