Oct.07, 2005

胡麻の油とヲタクは絞れば絞るほど出る?

[Diary]

最近のシンクタンクは神尾春央(*1)の霊でも降ろしとるのか?と思ったのがこの記事の第一印象でした。
マニア消費者市場を新たに推計、04年は主要12分野で延べ172万人、4,110億円規模
~「オタク層」を5タイプに分類、マーケティングフレーム新「3C」も提案~

どうもこの記事の続きのようで、しかも来週には出版の予定まで入っています。正気か。

マニア消費者層はアニメ・コミックなど主要5分野で2,900億円市場
~「オタク層」の市場規模推計と実態に関する調査~

とりあえず、私もざっと目を通してみました。「マニア」から「オタク」へ言葉が変化し、いかにも日経あたりが好んで使いそうな「トレンド」「ビジネスチャンス」を匂わせる内容となっています。で、ちょっと胡散臭い。

ここでは「オタク」という言葉を、「強くこだわりを持っている分野に趣味や余暇として使える金銭または時間のほとんどすべてを費やし(消費特性)、かつ、特有の心理特性を有する生活者」と定義しています。これに従うと私もオタクと見られかねません。嫌だなぁ。やたらと意味が拡散しているこの辺の言葉には、「社会常識をママのお腹に置き忘れてきたような連中」という漠然とした不快なイメージが付きまとうもので。ま、それはさておき。

今回のレポートのミソは、後半の「特有の心理特性」にあるそうで、6つのパラメータ(*2)によるオタクの類型化を試みています。占いのつもりで自分に当てはまるものがあるか見てみるのも一興でしょうか。

それぞれの典型例を見ていると「馬鹿にしとるんか」などと突っ込みたくなりますが、まあ一般化という名のデフォルメだと思いましょう。

しかし、「同人女子系オタク」(端的に言えば「腐女子」)と強調する割に、そのレーダーチャートにはちと疑問符が付きます。これ、本当に女性の心理特性か?

以前読んで納得した記事に、「男女の思考の根幹は『理解』と『共感』という似て非なるものである(それを意識できないとトラブルの元になる)」というものがあります。


腐れても女子ならば、「共感」の項目が低くなるとは思えないのです。どっちかと言うと同類項扱いされている「いわゆる『アキバ系』『萌え系』オタクの男性」のほうが母集団なんじゃないかとさえ思えます。このねじれにちょっと作為的なものを感じる。

思うに、マーケティングの基礎資料として売り込むためには、どこか一つに女性でツノを立てる必要があったんではないでしょうか。女性の強調だけなら服飾や旅行のほうがまだ自然な気もしますが、統計データの3.6%とされる「オタク層」には服飾オタク、旅行オタクが絶対的に少なかったか、服飾や旅行に女性が群がるのは当たり前で、それらは別のテーマにするべきと踏んだんではないかと推測します。それで腐女子に目をつけ、いわゆる『アキバ系』『萌え系』オタクの代表(*3)であるかのように扱ってみたのではないか。

このような、結論のために経過を歪めたような印象を受ける部分から考えると、どうも「提唱」しようとしているマーケティング手法を意識し過ぎているのではないか、と私は思います。だから、どうも胡散臭いと感じる。

そもそも、オタクをマーケティングのターゲットにしようという戦略自体、私は首肯しかねます。「ニッチではない」は「メジャーである」の同義語ではく、「オタク受け」は必ずしも「一般受け」を意味しません。その人口比3.6%、金額比11%に特化するということは、自らに枠を嵌めることになるだけだと思うのです(*4)。こちらの触れられ方はお座なりですが、萌芽期の商品をいかに成長させるかという点にこそ、本当のオタク層の活用法があるのではないでしょうか。

その意味では、むしろ昨年のレポートの方が本質をより明快に捉えています。即ち、マニアの「独自の価値観」「自己流の解釈」「理想像の追求」。これに、近年における個人の情報収集・発信能力の著しい向上が加わっていることにこそ注目すべきではないのか、と。消費性向は結果であって目的ではないのだから。

それを「オタク」という曖昧なキーワードと結びつけ、安易なマーケティングに繋げようとしたところで、どうにも見当外れな印象が拭えません。

*1.

「胡麻の油と百姓は、絞れば絞るほど出るものなり」(本多利明「西域物語」)で有名。「菜種~」というのは伝聞にありがちな間違いなので、ちょっと恥ずかしいかも。

*2.

この場合の「自律」は「独自の価値観を持つ」の意味だと思うが、「帰属」の意味がよく解らない。「趣味そのものに帰属すること」か?

*3.

最近は秋葉原より池袋が腐女子のメッカらしい。WBSまで取材に行くんだから世も末だ。

*4.

ただし、投資効率最優先(あるいは投入できるリソースが僅少)で、ピンポイントで狙い撃ちをする(しかない)ならそれもアリ。しかし、それはまさに「萌芽期の商品立ち上げ」ではないのか。

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