Oct.30, 2007

歯医者無惨

[Diary]

昨日、親不知を摘出した。

事の起こりは先日の治療時。何かを噛むと左下の奥歯のあたりに違和感が。「痛み」というほどではないが、間が悪いとラーメンの麺でも妙な感覚が起こり、反射的に避けてしまう。その違和感の原因が虫歯ではなくて親不知だというのだ。X線撮影によると、歯茎の中で左下の親不知が斜め前方に向かって生えようとして一番奥の歯に突き当たっている。真っ直ぐに戻る事もなく、奥歯との間に出来る隙間が厄介な虫歯の巣になりかねない、などなど。結論、「取りましょう」。

将来、再生治療の種になるかもしれない(超虫の良い話)ので出来ればそのままにしておきたかったのだが、これのせいで奥歯が腐っては本末転倒なので抜くのに同意する。

でもって摘出と相成ったのだが、「摘出」というのは、もはや「抜く」とかそういう生易しいシロモノではなかったから。

麻酔をかけたらさくりさくりと歯茎を切開。表に出てないからこれは当然。これで引っこ抜けば一丁上がりかと思ったら、ここからが残酷フルコースの幕開けであった。

「小さくしてから取ります」と、およそ歯科用とは思えないようなデカいビットを持ち出すと、頭蓋に振動が反響するような勢いでごりごりと盛大に歯茎の中の歯を削り始める。いくら麻酔が効いているとはいえ、すげぇ気持ち悪い。さて問題はここから。

「ちょっと骨を丸めてから取りますから」ちょっと待ていま骨って云ったか!?

そんな内心ツッコミが終わるまもなく、神経を抉り抜けるような痛みが左顎から頭蓋の左耳の裏あたりを経由して脳の中心に突き刺さる。

「深いところだから麻酔が届かないねー」とか云いながら悠々と顎の骨(だと思う)をじゅりじゅりと削り取られる。何の拷問だコレは。

やっとこドリルが離れたと思ったら、先が超ミニの靴ベラのようになったステンレス無垢の千枚通しのような器具が真っ直ぐに突き込まれ、

みじり、ぐぢり、ぶづっ。

……とこじり回される度に耳の内側で肉の弾ける嫌な音…の前に痛い!無茶苦茶痛い!体重乗せて親の仇のように抉り込まれる(主観)もんだからもう顎がもげそう。いい加減朦朧としてきたところで先曲がりペンチのような器具が入ってきて、

「パギリ」

衝撃と共に何か口の中に欠片飛び散る。再びドリル。千枚通し。こぎり。先曲がりペンチ。ぴぎゃり。痛い。痛い。イタイイタイイタイ―――。

顎の骨にがっちり食いついている、一番デカい奥歯よりなおデカいシロモノを取り出すには一発では無理で、削ったり割ったりとながら少しずつ取り出すんだそうだ。……が、何するにも一々猛烈に痛い。痛みも一定のレベルを超えるともはや言語での表現は不可能で、反射で身体がガクガク跳ねる。バキュームが追いつかない状態で一撃が炸裂して反射的に「がぼっ」とか「ごがっ」とか喉が痙攣するとそこら中に血が飛び散る。つーか返り血が顔についてます先生。バキュームとか保持してる助手のおばちゃんの「うわぁ」というような眉根の寄せ方を見ると、実際口内にはかなり無惨な状況が現出していたのではあるまいか。

ほんでもっていよいよ根っこを残すのみとなった処で、これがもうどうしようもなくなってきた。とにかく取れない。顎の骨を砕くような力加減で歯茎の中をこじり回していたところで、

「イカンな道具曲がったぞ」

医療用のステンレスより頑丈な自分の歯を褒めてやろうというような気は微塵もない。梃子で駄目ならとドリルで削りにかかるがこれも上手く行かず。麻酔を追加しようにも深い部分には効きが悪いとか何とかで、実際失禁しかねんくらいに痛い。「痛かったら左手挙げてー」というから時折がぼごぼと血の泡吐きながら精一杯手を上げるが、痛いからといって止めてくれるわけではないんじゃ何の意味があるのか解らん。

いったんX線で確認してみるとまだ4~5mmくらいの根っこが残っている。最悪これを残して閉じてしまう事も不可能ではないが、予後を考えると何とか完全に取り除きたいところという。砕けた歯の残りが歯茎の中で腐ったらと思うと恐ろしくてしょうがないのでそれ自体は同感なのだが。

「とにかく引っかかるところを作れば……」とか呟きながら先生が滅菌袋から取り出しましたるは刃のないメスみたいなシロモノと……ステンレス製のハンマー。ハンマーってもしかして……

づぎんっ。がづっ。がづっ。ごづっ。

それは鑿と槌でございました。歯茎の奥に残る親不知の根っこをガンガン打ち欠いている(らしい)。痛みも極まってくると冗談抜きに火花とか星とか表現したくなるようなモノが視界にノイズを撒き散らし始める。抉る痛み、裂く痛み、割る痛み、砕く痛み、そのどれもがそれぞれに味わいが違うが、もう音と感覚だけでワタクシの心は折れました。これ以上思い出したくない。

いい加減朦朧としてきたところで唐突に、

「ぱぢんっ!!」

何かが致命的に切れたような感触と共に、顎の左半分から後頭部に跳ね返って左顔面に電流が抜けるような衝撃が弾けて反射で体が跳ねる。神経と云うのは本当に電気をやりとりしてるんじゃあるまいか疑いたくなるような弾け方だった。その衝撃は刹那の一瞬ながら、強さだけならスタンガンにも匹敵するかもしれない。

「取れた!いやー、やったやった」

やたらと達成感に満ちたコメントなど頂きながら摘出完了。のち縫合して終了。たっぷり一時間半ぐらいかかったんじゃなかろうか。

死ぬかと思った。これに比べたら先月の手術なんか物の数ではない。

使い終わった血染めの拷問器具医療器具と、割れて砕けて原形とどめていない割には妙に「生物の一部」感が漂ってくる大小様々な歯の欠片。とにかく終わった。これで終わったんだ。

さすがにもう精根尽き果てたのであとは帰ってくたばっていたが、頭の左下1/4くらいが腫れ上がったような感覚が気になって結局一睡もできなかった。痛みはそう極端ではないが、逆にあの痛みが戻ってくるのではないかと思うと恐ろしくて、切れ目なく鎮痛剤を飲み続けている。

ほんで今日。左下顎がぼったりと腫れ上がっていた。もはやぱっと見で顔の右半分と左半分の輪郭が違っていて、家人を始め会うもの皆ぎょっとして私の顔を凝視する。誰がリアルであしゅら男爵しろと云ったか。

恐ろしくて茶とヤクルト以外の食事は取らずにいたが、今日傷口の消毒に行ったら「どんどん食べないと駄目です」とか云われた。そうは云っても人間は痛みに弱いのだ。つーかこの鈍痛が消えてくれないと怖くて口が使えない。

とりあえず次の食事はリゾットか何かにでもすることにしよう。

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Comments

From :とみ : 2007年10月31日 08:36

自分も親知らずとった時は、「え?そこ歯じゃないよね…?アゴ…じゃね?」みたいな感覚のところをゴリゴリ削ったりしてたんで、リアルに思い出されます…^^;;;;;

From :PsyonG : 2007年10月31日 13:03

正直思い出したくないシロモノですねこれは;

でもって現在も腫れた顎が元に戻ってなくて、宅配の受け取りに出たら佐川の兄ちゃんがびびってました(を

家人によれば「昨日は左目元から晴れ上がってたから少しはマシになってる」らしいですが。会社勤めの時にこれやってたらえらい事になってたとこです。

From :hkondo : 2007年10月31日 18:01

奈須的擬音が似つかわしいですよね。とても医療行為とは思えない。やっぱどっちかってーと猟奇行為であることよなあ、と背筋が震えました。首から上はいじるもんじゃないね…。

From :PsyonG : 2007年10月31日 20:42

言われてみるとちょっと新伝綺入っとるかにゃー?

実際あの手のテキスト読む連中のどれだけがこういうリアルな痛さにまで思いが及ぶのかなぁとかちょっと考えさせられました。まあ金属バットが鉈に変わったからといって騒ぐ世間もどーかと思いますが。

ドリルだけだったら表題もそのものズバリ「猟奇ドリル」とか付けたかったんですがねぇw

鈍痛が引かないので痛み止めを追加してもらってきた。どうでもいいけど腫れ上がった肉が邪魔して口が完全に閉じられなくなってるぞ;

From : : 2007年11月01日 07:28

うあぁぁ~~。。。
やな記事読んじまったょ。。

この前、奥歯が痛んで歯科へ行ったんですが、私も顎の骨から頭の出切っていない親知らずが一本。
医者曰く「この状態じゃうちでは抜けないから、近くの口腔外科で抜いてもらうしかないですね。」
なんとなくいやな予感がして、どうやって抜くことになるのか聞いてみると、「顎の骨を削って抜くことになりますね。」
露骨にいやそうな顔をしてたはずですよ。<自分

まぁ、「行く気になったら紹介状書いてあげるから言ってね。」って言われてたけど、この記事読んだら覚悟決まんないよぉ!
#ちなみに「口腔外科」を「航空外科」と一瞬誤認したのは内緒の話。